とある春の出来事

みなさんこんにちは。看護師・山岸です!

今日は、とある春の出来事について、お話させてください。

がんを患っておられる方でした。

もうご高齢で、喀痰の吸引や経管栄養、麻薬の使用など、多くの医療行為が必要な方でした。パリアティブケアホームへ来られた際、ご家族様と「ここで最期までお世話になろうと思います。よろしくおねがいします。」と言っていただいていたのを今でも覚えています。ご家族様もたくさん面会に来られ、ご本人様もホームにも少し慣れてこられ、気軽に相談ができるスタッフもたくさん出来たと仰っていただけるようになった、そんな頃でした。

訪問看護でお伺いすると、

「私、やっぱりお家へ帰りたいの」

「ここ(ホーム)も素敵なところだけど、やっぱり最後はお家がいいわ。死ぬときはやっぱりお家がいい。」

そうおっしゃられました。

丁度ご家族様も面会に来られ、お話をすると、最近ご面会の際にも、ご家族様へ、ご自宅で最期を迎えたいということを伝えておられたそうです。

ご自宅へお帰りいただくためには、いくつかのハードルがありました。

訪問看護サービスを利用していただいたとしても、どんな時も常にそばにいさせていただけるわけではないので、ご家族様にも喀痰吸引の方法を習得していただき、行っていただくことが必要になります。

ほかにも、経管栄養の仕方、お薬の注入の仕方、医療用麻薬のレスキューの使い方の習得、そしてご全てのご家族様の継続的な支援体制の確認と構築……。

ケアマネージャー、ご家族様、ホームの看護師で話し合いをし、ご自宅へお帰りいただけるよう、調整していくこととなりました。

喀痰吸引などの手技をご家族様に習得いただくため、お仕事帰りやご面会の際などに、ホームの看護師と一緒に練習を行っていただき、3か月ほどの時間をかけ、一つずつ学んでいただきました。

そして、2回ほど、それぞれ4時間ほど、ホームの看護師が同行させていいただいてのご自宅での滞在を重ねていただき、ご自宅の環境なども確認していただき、最終的に、ご自宅へお帰りいただくこととなりました。

「ばいばーい!」

ホームから笑顔いっぱいでご自宅へと出発されるAさんを、スタッフみんなで見送りました。

その時の笑顔を忘れることができません。

数か月後、ご家族様からご連絡をいただきました。

お亡くなりになられたとのことでした。

最期は、旦那様の傍で息を引き取られたと。

「本人も最期を自宅で迎えることができ、満足だと思います、本当にありがとうございました。」

ご家族様のそのお言葉を聞いたとき、心の底から「良かった」と感じたのを、今でも覚えています。

ご状態的に、ご自宅へ帰ることが叶わない方も多くおられます。

ホームのことを大好きになっていただき、「ここは私の終の住処や」とおっしゃられ、最期を迎えられる方もおられます。

何が正解なのでしょうか。

正解などないのかもしれません。

最期をどこで迎えるのか、どう迎えるのか。

それは私たちホームが決めていいことではありません。

本人様が決める、ご家族様が決める、本人様と家族様で一緒に決める、そのサポートをさせていただこうと思った、ある春先の一コマでした。

  パリアティブケアホーム 入居相談員・看護師 山岸

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