こんにちは、看護師・山岸です!
今回は前々回のぱけそ!ブログの中でご紹介させていただきましたお声のエピソードをお伝えさせていただこうと思います。
『最期までクリームパンを食べたい。』
一見すると、特に難しいご要望ではないと思われる方が多いかもしれません。ただ、その方のご状態や抱えられているご病気によってこのご要望実現のハードルは大きく変わります。
その方はご病気の特性上、呼吸の機能や嚥下機能が徐々に低下してしまうご状態でした。ご入居の段階ではお食事も数口のみお口から召し上がっていただける状態で、食後には吸引が必須なのですが、ご家族様は『好きなものを食べて死ねるのなら本望です、好きなようにさせてやってください』そう仰られました。
それを聞いて私を含めホームの看護師は大変に悩みました。もちろんご家族様とご本人様のお気持ちは分かりますし、私たちもそれにお応えしたいという思いはあるのですが、それができない事情があったからです。
多くの方が、好きなものを食べて、眠るように最期の時を迎えられる場面をイメージされるかもしれないのですが、嚥下の機能が著しく低下されている方が固形物をお召し上がりになられた場合、窒息ということも十分に考えられますし、その場合はとても苦しい思いをしてしまわれることとなります。
お口の中から食道へ飲み込むことができたら安心、ではないのです。飲み込んだ先が食道ではなく、気道に入ってしまい誤嚥してしまう場合や、食道からうまく胃まで運ぶことができず嘔吐してしまい、その嘔吐物が気道に入り誤嚥してしまうことも考えられます。でも、なかなかそこまではイメージしにくいというのがあるのだと思います。
そこで、今回のエピソードの方は、パンはだめでも、中のクリームだけ少し唇に塗る程度ならどうだろうか、など何か少しでもご満足いただける方法はないか、一緒に考えさせて頂き、主治医の先生に許可もいただき、クリームだけ少量お召し上がりいただくことになりました。
はじめはご本人様も大変喜ばれていたのですが、ご病気の進行と共に呼吸機能が低下され、やがて『もういらない……』と仰られました。あれほど大好きだったものを、もう食べたくないと思ってしまう程に、ご病状は進行されておられました。
最期はお薬を調整しながら、少しでも苦痛が軽減されるよう、緩和ケアへと移行されることとなり、最期の時までご家族様とたくさんご面会いただき、お過ごしいただきました。
いまでもクリームパンを見かけると、ふと思い出すのです。
それほど僕にとっては忘れることのできないエピソードでした。
パリアティブケアホーム 入居相談員・看護師 山岸